特集・企画
2023.11.03
【座談会】オトナリサンが聞く若者のリアル(後編)〜経験を通じて変わっていく〜
サンカクシャの若者とオトナリサンの座談会。
前編では、サンカクシャとの出会いや印象から、これまでの大人感や若者と大人のコミュニケーションのあり方について話が広がりました。
後編の中身は、今は大人であるオトナリサンが子ども時代に学校や大人に対して感じていたこと、若者がサンカクシャについて感じていること、サンカクシャとつながって変わったことなどです。
場所が変わることで気づくことが増える
Hさん:小島さん、藤田さんの子供の頃どうでしたか?
小島:小学校までは良かったけど、中学校から上下関係があって、それまで仲良くやっていた一つ上のやつが急に先輩顔してみたいな。純朴な少年だったので、スクールカーストの中で探り合いみたいなのがすごい嫌でした。教師も綺麗なこと言うくせに行動伴ってないじゃんみたいな感じになって、全然世代でもない尾崎豊をずっと聴いてました(笑)。
それで高校は校則のない学校を選んで入ったら、先生も「お前ら自分の人生だから自分で決めろよ」という感じで、いい意味での他人への干渉のしなさみたいなものが心地良くて。そこそこ適当でいいみたいなこと(笑)を高校のときに思えたのは自分の財産かなと思います。
授業も先生の好きなことをやっていて、やたら原人が好きな先生がいて、プリントで50種類とか出てくるのをひたすら覚えて。こんなの教科書に出てくるのかなと思ってみてみたら5種類ぐらいしか出てないみたいな(笑)。残り45種類を覚えた意味は何だったんだろうなと思いながらも、そういう無駄なんだけど効率性に追われることがないのが良いなと思いました。先生が戦争や政治について自分はこう思うと話してくれたから、社会的な関心を持って、記者のような仕事も面白そうだなと考えるきっかけになりました。
Hさん:私は⾼校に⼊ったら、周りが⼤学、しかもいわゆる「早慶上智GMARCH」に⼊るために⾼校に⾏くんだみたいな価値観で、試験のために科⽬を選んで試験のために勉強してる感じでした。家のこともいろいろあって、何も楽しいことがないし、元々知ることは好きなのに、勉強も受験の道具になってしんどいし。
当時テレビとかで就職するのにも運動部に⼊らないとダメ、「東大に行ってもフリーター」みたいなことをよく⾔っていて、本当に世間を知らなかったし、当時なんか知る由もないんですけど、「仕事に就けなかったら家から出れないじゃん、好きなことなんか選んでも生きていけないんじゃん」ていう脅迫感で運動部に⼊ったんです。でも元々運動好きでもないし、体もそこで壊れちゃって、⾃暴⾃棄になっていたところがあります。「メディアもなんなんだよ」みたいなところもちょっと感じてました。今も感じてます(笑)。
藤田:私も言われるままに学校に行っていましたが、小学校5、6年の頃の先生が厳しくて。今思うとやばいんですけど、頭叩くみたいな先生で、その先生の勘違いで、ある班の人がボランティアと称して居残り掃除をさせられたことがあって、大人が言ったら全部それが正しくてそれを聞かねばならんのかみたい感覚を持ってしまったことを思い出しました。
足が速いという理由だけで中学で言われるままに陸上部に入ったら、居心地が全然良くなくて、3年生になってから走るの好きじゃねぇって(笑)。兄から絶対運動部入った方がいいよっていう謎のプレッシャーを受けたんだけど、絶対嫌だと思って、美術部に入ったらすごく居心地がよくて。その時にこうしなさいって言われたことを無理に聞いたらしんどくなるんだとか、聞かなくてもいいやつもあるんだってことを知った気がするなあって、皆さんの話を聞いて思い出しました。
Hさん:お二人の話を聞いて、場所が変わることで気づくことが増えるんだと思いました。その点で、サンカクシャはめちゃめちゃありがたいです。
Iさん:僕は家庭の状況があまり良くなかったので、学校を避難所代わりにしてるっていうふうだったから、居心地を求めたりはしてなかったです。むしろ学校の方がいいと思っていて、学校に対する反抗もないまま大学まで行ってしまったので、皆さんの話は聞いていて新鮮だなと思いました。
小島:サンカクシャと学校のここが違うみたいことはある?
Iさん:自分は似ている気がします。学生の頃の友人関係と今の荒井さんやスタッフとの関係が似てるかなって。いじってきたりとか(笑)。今の呼ばれ方も小学校の頃にずっと呼ばれていたのと同じで、12年ぶりに復活しました。
健康的な逃げ場を初めて⾒つけた
小島:サンカクシャで過ごして、いいと思うところを聞かせてください。
Iさん:距離感があまりないところがいいなと思います。気をつかわなくていい所はいい点かな。シェアハウスから出て、すぐ近くに住んでいるんですけど、引っ越した当初は近くだと関係を維持できるからいいなと思ったんですけど、今は近すぎたかなと(笑)。
Kさん:さっきも言ったんですけどいい意味でゆるい。この前、3日前くらいに連絡が来て、愛媛に連れて行かれました。急に連絡してくるわりには内容を話さないのはやめていただきたい(笑)。ご飯が美味しくて、まあ楽しかったんですが。基本的に皆さんどんな内容でも話を聞いてくれます。
小島:じゃあ二人とも基本は居心地がいいってことで良いですかね(笑)。
Hさん:福祉系の機関なので当たり前かもしれないですけど、すごく健全だなって思います。でも今までのいわゆる福祉のところよりゆるくて自由、かたくない。
私が今まで場当たり的に⾏ってたところが、ある意味不健全で⾝の危険があるようなところだったので、⾃分が健康的な逃げ場を初めて⾒つけられたなあと思っています。
私が来た頃、Apple 社と提携したクリエイティブプログラム(Today at Apple Creative Studios)をやっていて、こういうことができるんだっていうのもそうだし、そこの⼈たちが優しくて、LGBTQにも寛容で、今までの世界がそこでぐるっと変わったということがあります。一瞬でもそれに触れられただけですごいありがたかったです。それまで受けていた就労継続⽀援だと、ただの軽作業とか簡単な事務作業が多くて、給料も安くて仕⽅ないみたいなところがあったんですけど、こういう仕事があるんだな、こういう⼈たちがいるんだなと世界が広がりました。
今まで⾃分が何を話しても否定されたり、気にしすぎるみたいに⾔われて、気にしないようにしていたら具合が悪くなってしまっていたのですが、サンカクシャの⼈たちにちゃんと聞いてもらえるようになったことがケアになりました。「聞いてもらえた⽅が結果的に良いんだなー」とわかるきっかけになって、いろいろありがたいことがあります。
小島:Hさんは、最初のほうで今、サンカクシャと距離を取り始めたみたいなことをおっしゃったと思うんですけど、それはどういった理由からなんですか?
Hさん:私は多分最初からある程度の距離を取ろうとする前提でもいるのでK さんや I さんとはちょっと違うのかなと思います。
お世話になる過程で、若者側の、自分と同じ立ち位置の人達との関係性もしんどかったのもありますし、私自身も、適切に頼るとか弾くを出来ないから、変に他者に依存しやすいんです。自分で決められなくなりますし。相手の意見が自分の思考になってしまうので危ない。
なので、機関でも人でも、最初に頼らせてもらう段階から離れることを考えていて、いつでも代わりを探せるように、何が起きても⼤丈夫にしてるんです。それでもし離れたら、そういうこともあるだろうしという感じなんですが、サンカクシャは⼤きな存在になっています。
自分に害がある人間ばっかりじゃないんだ
藤田:Hさんは選択肢の広がりがあったんだなと聞いていて感じましたが、他のお二人はつながる前と後で自分の中で変わったことがあるのか聞いてみたいな。
Iさん:自分は人と話すのが苦手というか、消極的だったんで、キチに来始めた当初も隅っこで携帯いじったりしてたんですけど、今はサンカクシャ内ではいろいろ積極的に話せるようになりました。仕事のことでは、クエストをやってみたり、サポステ(若者サポートステーション)を紹介してもらったりしたことで、自分の方向性が定まりつつあるかな。
今、法律関係の資格の勉強をしていることも、サポステで能力が高いと診断してもらったんでやる気になりました。実は大学の頃にロースクールに行きたかったんですけど学費の問題で行けなかったので、繋がってるんじゃないか思って、今、頑張ってるところです。そういう面ではすごくありがたいなと思います。
Kさん:思ってたより自分に害がある人間ばっかりじゃないんだなって思うようになったというのはあります。自分の周りに人格を疑うようなモラハラが横行してたので、そこが一番大きいです。
あとは、基本的に「これやってみない?」とか「これどう?」って言われたものは、期待されてるんだからやってみるかぐらいのノリで、断らないようになりました。結果どう転ぼうがやってみて判断すればいいというマインドになってきたっていうのがあります。
藤田:急に来いって言われても「じゃあ、まあ行ってみるか」みたいな?
Kさん:予定が合えばですけど。前だったら内容教えてって言って、それから決めてたんですけど、今はとりあえず呼ばれたら行くみたいな。
仕事してた時は頑張ればできるタイプだったんで、無理して体を壊しました。なので自分のペースでやってはいますが、外的要因で何か変わることもあると思うので、とりあえず今はいろいろやる期間かなと思っています。
小島:失敗することとか怖くない?
Kさん:失敗しても俺のせいじゃねえって割り切ることを覚えました。前は安全策をとってやらないということもありましたが。
クリエイティブな仕事に興味はあるけれど
小島:やってみて意外と楽しかったことはある?
Kさん:クエストでやった動画編集はもともと興味があったところからスタートして、自分がクリエイティブ系は、ものにもよるけど強いのがわかりました。
こういうのやってみたいなあっていうのがわかったので、そのためにどうしようかなって考えているところです。
Iさん:サンカクシャを紹介するカードや卓球大会のチラシを作っている時はすごく楽しかったです。でもサポステではクリエイティブな能力は低いって診断されてしまったので悩みます。スタッフにはやってみたらと言われるんですが、クエストでやるのと仕事でやるのは違うんじゃないかとか思ってしまって、就活まではいかないというのが現状です。
Hさん:私も⾃分が収⼊を得るためにとりあえず選んだ分野と興味がある分野がなかなか重ならなくて、今ひとまずこっちを⽬指して、余裕ができたらこういうことにチャレンジできたらいいなというのがあります。
クエストは、⼤体楽しくやらせてもらっているんですが、電気機械の会社で部品をカチャカチャ組み⽴てる作業をやらせてもらって、あまり体動かしたり声を張り上げるみたいな居酒屋っぽいことができないので、黙々と作業する環境が良かったなと思います。
私もサンカクシャのカード作りをしたんですけど、イラレ(デザインソフト)を教えてもらって作っていって、すごく楽しかったです。博物館の動画編集も歴史が好きなので、⾯⽩いなと思いながらやっています。
(若者がクリエイティブな体験をする「クリ研」についてはこちら)
藤田さん:作ったものに対してほかの人からの反応は?
Iさん:自分が作ったのはかわいいんじゃないかって。こういうやつなんですけど。(スマホでデザインを見せながら)
藤田:かわいいよこれは。
小島:絵本タッチでかわいい。
Kさん:TikTokのプログラム(TikTok当事者クリエイター塾)ではこんな動画を作りました。この時は、もう一人の人とIくんと3人でやる予定でしたが、その人がいなくなって、結局2人で作りました。仮面をかぶって動画に出ているのがIくんで撮ってるのが自分です。実体験を基にしたフィクションです。
(*動画はこちらからご覧になれます)
小島:今日は長時間ありがとうございました。語り残したことはありますか?
Iさん:十分しゃべれました。ありがとうございました。
Kさん:これ以上話すと毒が出そうなんで(笑)。
Hさん:今、年齢が30に近づいてきているんですが、サンカクシャに来始めた頃から周りの⼈はしっかりしててこんなにサポートしてくれるのに、私ができてないみたいな気持ちがずっとありました。それは最近ある程度折り合いが付けられているので、そのうち周りを⽬標にできるといいなあって思います。⾃分より若い⼈たちもしっかりしてるように⾒えるので、刺激を受けることがよくあります。
小島:我々、普段こういう話を聞かせていただくことはなかなかないですよね。同じ会社の人なんかでも、自分が本当に思っていることを話したり聞かせてもらうのはなかなか難しいんだけど、今日はいろいろ聞かせてもらえました。
人の思いを聞くことによってこちらも成長するし、そういう成長って歳をとっても変わらないと思います。ありがとうございました。
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土曜日の昼間、若者たちがこれまでの過酷な経験を共有しながらも、お菓子を食べながら和やかに時間が過ぎていきました。
お忙しい中、ご参加いただいた小島さん、藤田さん、ありがとうございました。これからも若者たちを見守りいただきたくお願い致します!
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ライター
水上みさ
広報/ファンドレイジング
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2023.11.03