活動報告
2024.02.06
住まいを失った若者向けのシェアハウス、立ち上げから3年間の軌跡 〜代表荒井が振り返る〜 後編
前編の記事はこちらです。
拡大期:2022年度
2年目には、シェアハウスを増やしました。
他の助成金も獲得することができたという側面もありましたが、定員を超えての受け入れは非常にリスクが高く、ニーズも多すぎるため、拠点を拡大しようと踏み切りました。
2拠点目に東池袋(男性用)、3拠点目に大山(女性用)、4拠点目に上中里(男性用)を開設しました。
この頃には、シェアハウスで女子の受け入れも可能か? という問い合わせが増えたこともあり、
スタッフみんなで女性用のシェアハウスを作ろうと踏み切りました。
また、サンカクシャは比較的男性からの問い合わせが多いこともあり、男性用のシェアハウスも増やしました。
この頃は、荒井がオンラインゲームにのめり込んでいた時期でもありました。シェアハウスに住む若者から「APEX」というゲームを教えてもらい、若者にボコボコにされたことが悔しく、絶対上手くなると決め込み、必死に練習をしていました。
シェアハウスで一緒にゲームをしながら、仕事の話、今後の話、シェアハウスでの生活の話などをして、それがかなり面談の時間になっていました。
そこから、エスカレートし、eスポーツチームを作り、バーチャルYouTuberを始めました。
ゲームを活用した若者支援の形もあるのではないかと思い、いろいろな取り組みをしました。
Eスポーツ大会を開催したり、ゲーム配信をしたり、Twitterでゲームのことを書いたりしている中で、シェアハウスのことなどもシェアしていきました。
すると、X(旧Twitter)を見て、若者たちからシェアハウスに入居したいという連絡が相次ぐようになります。深夜にDMがきて住まいがないからシェアハウスに入居したい、というような問い合わせが続々とくるようになりました。この1年で40名くらいの若者から問い合わせがあり、20名近くの若者がシェアハウスに入居することになりました。
DMで簡単に状況を教えてもらい、電話もしくは会って、相談に乗る対応を重ねました。
その日中にシェアハウスに入居してもらうこともあれば、ホテルを手配して、その間にシェアハウスで受け入れられる状況を作ってから住んでもらうなどといった緊急対応が増えました。
つながった若者の多くが行政への相談歴がなく、行政の支援を知らない。ウェブサイトで支援を検索するけれど、役所のページが見づらくて、SNSで支援情報を検索する。そして、SNSで”即日入居可”だとか”仕事もあります!”みたいな謳い文句のアカウントに問い合わせをしてみたけれど、環境が劣悪で逃げてきたとか、グレーな仕事を案内されたというような貧困ビジネスのまがいのものの被害に遭う若者からのSOSもありました。
若者の住まいの支援は公的には不十分で、支援が届いてないからこそ、こうした業者が若者を搾取しているといった構図が垣間見れました。この住まいの支援の難しさ、根深さを痛感した瞬間でもありました。
拠点を複数増やしたことで、スタッフも増員しました。
それまでは、1つのシェアハウスの運営だったところから、複数のシェアハウスを運営することになります。業務を洗い出したり、整理したり、みんなで情報共有をしたり、ケース会議をしたり、など少しずつ支援の体制を整え始めました。
恥ずかしいことに、それまで家賃の回収が十分にできていませんでした。というのも、誰がいついくらを払ったということがきちんと管理できていなかったんです。
トラブル対応に追われ、日々を生きるのに必死で管理業務に手がつけられていなかった状態でした。
そこで、家賃を回収する仕組みを作ったり、若者1人1人に担当をつけて支援するなど体制を整えていったのですが、それでも家賃の回収率は50%ほどで、家賃のみでだいたい500万円ほどの赤字でした。
家賃を払える若者ばかりを受け入れていたら苦労は少ないのかもしれませんが、シェアハウスが必要な背景を考えると…
入居者もTwitterからの問い合わせ半分、支援機関からの依頼半分で、これまた大変な若者ばかり受け入れてました。
自殺未遂はもちろんのこと、窃盗事件が何度も繰り返されたこと、若者が失踪していなくなったこと、半グレとケンカして、半グレがシェアハウスに乗り込んでくること、貧困ビジネス事業者がサンカクシャと名乗って児童相談所とケンカしていたこと、住人同士の殴り合いのケンカが起きたこと(これをきっかけに荒井はキックボクシングをやろうと決意しました)、みんなバイトしてもすぐ辞めてしまうこと、部屋がゴミ屋敷になること、などなど、もう本当に大変でした。
相談は続々と増え、ニーズの大きさを痛感しました。
闇バイトや、貧困ビジネスの実態も知り、大変なことばかりだけれども、まだまだできることを広げていこう、そう覚悟を決めた年でもありました。
安定期:2023年度
安定期と書きましたが、何も安定はしていません。
それでも、支援体制が大きく整い始めました。
これまでの数々のトラブルを踏まえて、団体としていくつか方針を決めました。
まず、相部屋を基本的に止めました。若者たちは相部屋でも大丈夫というのですが、自立に向けて頑張ってもらう環境を考えると、住まいの環境は大事。相部屋だと、寝たい時に寝られない、遊んでしまう、相手に引っ張られてしまうなど様々な声もあり、全室個室に切り替えました。それによって入居人数の上限も変わり、家賃収入も減ります。それでも1人1人に自立に向かってもらえる環境を、と考えて決めました。
とはいえ個室にすると引きこもってしまい部屋から出てこないことも増えます。
この辺りのバランスは本当に難しい…
そして駒込拠点の撤退。
一番最初に作った思い入れのある物件を手放しました。
上記の全部屋個室を考えると、駒込の物件は各部屋は広いのですが、個室にするには広すぎる。部屋は広くても相部屋だと自立に向かう環境としてはふさわしくないので、手放すことを決めました。
ただ闇雲に物件を増やしていけばいいというのではなく、サンカクシャの住まいの支援に適した物件の条件みたいなものが少しずつ見えてきました。これから、シェアハウスをいくつか手放すこともありますが、これは事業縮小ではなく、より良い住まいの支援を作るために、必要なプロセスではないかと思います。
ここ最近は、希望のエリアに空き物件が出ると優先的に声がかかったり、知人からの物件紹介が来ることが増えてきました。物件は縁でもあるので、より良い物件と出会うためにも、条件に合わなくなった物件は手放し、次の物件探しをし、支援体制をより良くしていくことを続けていこうと思っています。
3年目は、ベテランの支援スタッフなどのサポートも加わり、住まいの支援がさらに充実していきました。行政の制度につなげること、行政とより密に連携して支援をすること、他団体と密に連携して支援を行うことが増えました。
また、別の助成金を活用して、個室のシェルターも開設しました。
これまでは、シェアハウスしか住まいの選択肢がなかったのですが、個室のシェルターを用意することで、シェアハウスで共同生活をすることが難しい若者に違う選択肢を提示することもできるようになりました。
これまで全員シェアハウスに入居していたので、トラブルが相次ぐということもあったため、こうした複数の選択肢の提示がトラブルの減少に大きく貢献しました。
そのほか、ケース会議を定期的に行ったり、契約書周りの整備をしたり、物件の管理、備品の発注など事務局周りもスタッフが配置され、整っていきます。
また、就労支援では、「サンカククエスト」といって、地元豊島区の企業40社ほどから若者の仕事体験の機会をいただいています。たくさんの仕事の体験の場をいただき、さらにありがたいことにそのまま若者を採用してくれる企業も増えてきています。
「就労支援つきのシェアハウス」というテーマを掲げていながら就労支援がなかなかできていなかったのですが、3年目から少しずつ就労のサポートがうまくいく若者も増えてきました。
※就労支援の具体的ケースに関する以下の記事もご参照ください。
“オフィスカジュアル”を買いに行く 〜アルバイトから契約社員になって〜
https://www.sankakusha.or.jp/magazine/20231017/
若者を囲む ”カフェ” と ”街の人” と ”サンカクシャ” の ”△サンカク”な関係 〜傷つきながら自立していく姿を見守る〜
https://www.sankakusha.or.jp/magazine/20230323/
就労のサポートをする前に、年単位の休む時間、働く意欲を回復させる時間が必要ではないかと感じます。これに対して1年で成果を出すというのは非常に難しく、3年間の複数年の助成のありがたさを痛感しました。
若者の良い変化もあれば、年々つながるケースがヘビーになっていくという変化もあります。
1人1人大変な若者にみんなで丁寧に寄り添うことを大事にしつつも、スタッフの疲弊や増え続ける相談に課題が噴出し続けていました。
支援体制を整えても、ニーズがあまりに多いため、どれだけ物件を増やしてもスタッフを増やしても追いつかないという限界も感じました。そうしたことを踏まえて、全国各地の若者の住まいの支援に取り組んでいる団体と連絡を取り始めました。
みな、手弁当で文字通り汗や血を流しながら、若者の住まいの支援に奔走していました。
全国各地で15団体ほどが若者の住まいの支援に取り組んでいることを知り、みんなでつながってお互いを労ったり、ノウハウを共有しあったり、勉強会をすることを決めました。
そして、大学の先生とも連携し、全国の若者の居住支援に制度外で取り組む団体の実態調査なども始めました。
さらに、政策提言などにも力を入れていきます。
視察の受け入れを積極的に行い、講演や研修の機会に住まいの支援の実態を話し、こども家庭庁や東京都に対して若者の住まいの支援を説明する機会なども作りました。
この頃からトー横や闇バイトなどに関する報道が増え、若者支援の必要性への認知が少しずつ広がってきたように感じます。
来年度には、こども家庭庁で「こども若者シェルター事業」も始まります。
全国各地の団体がみんなで少しずつ声をあげ、若者の住まいの支援が広がっていくように、これからも現場から情報を発信していこうと思います。
おわりに
3年間の軌跡を書いてみました。
書いていて最初の2年近くは目も当てられないほどの悲惨な状況だったと感じました。3年目に体制を整えたとはいえ、まだまだ課題はたくさんありますので、これからも体制を整え続けていくと思います。
財源が安定するところまでこの3年で作っていけたらと思いましたが、まだまだ運営の財源は安定せず、というよりどんどんニーズに応えて規模を拡大してきたので、必要な金額が増え続けています。
サンカクシャだけが拡大しても、大きな意味はないのではないかとも思い、1つの団体でできることの限界も感じています。だからこそ、政策提言であったり、他団体との連携であったり、支援の輪を広げていくことに力を入れています。
若者の支援のニーズがあるところに、いち早く飛び込むには勇気が必要でしたが、この3年間めげずに取り組んできて、少しずつ支援の必要性が可視化されてきたように感じます。
私たちだけではなく全国各地で、制度も後ろ盾もない中、実践しているみんなの影響や、報道などの様々な影響により、少しずつ支援の必要性が世に浸透してきている気がしています。
サンカクシャの3年間を振り返ると、本当にスタッフに恵まれたなと感じています。
みんな1人1人の若者にとことん寄り添い、熱心に地道な寄り添いをする。
大変なことの方が圧倒的に多いのに、ニコニコと楽しく若者と関わる。その姿勢を見て、応援が集まる。そんな循環が起きているような気がします。
助成金の3年間の成果は? と問われたときに、支援した若者の変化はもちろんのこと、熱心な支援者が増えた、人が育ったことが何より大きな財産なのではないかなと思いました。
まだまだ若者の住まいの支援は課題だらけですし、公的支援も少ないので、これからもどうにか財源を確保して、活動を続けていきます。
そして、自団体だけではなく、若者の住まいの支援全体が広がっていくような働きかけを続けつつ、最前線で若者に寄り添っていける団体になれるよう、これからも頑張っていこうと思います。
最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!
この活動は、社会福祉法人中央共同募金会様の「赤い羽根福祉基金」による助成を受けています。
助成団体様ならびに寄付者の皆様に厚くお礼申し上げます。
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ライター
荒井 佑介
代表理事
活動報告
2024.02.06