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スタッフダイアリー

2024.07.01

ギブソン・レスポールスペシャルと野良犬の歌

 今月から私の国民健康保険料が3倍になった。

 3倍。何かの間違いではないかと役所に問い合わせたのだが、どうやらそれまでの保険料は私の保険が社会保険から切り替わる移行期間の収入を元に算定されていたらしく、むしろその額が現在の収入に対して安すぎたのだという。

 そう言われても困る。保険料の値上げなど想定していなかった前年度の私は、2/3ほど浮いていたはずのそのマネーを貯蓄やシン・ニーサに回すことなどせず毎月ほぼ使い果たしており、さらにそれに合わせて家賃やMacBook Airの月賦払いなどの固定費用も決めてしまっていた。そこにいきなり3倍の保険料が乗っかってきたわけで、要するに、私の家計状況は今、ヒジョーにキビシー。

 それはひとえに私の無知ゆえの自業自得ではあるのだが、しかし考えてみれば税や保険について学校できちんと習った覚えはないし、ただでさえ忙しない生活の中でそれらを改めて学ぶ時間もない。
 たとえば、「はい、年度末が来ました。それではエディー・ヴァン・ヘイレンのギターソロ(「Beat It」)を弾いてもらいます。これは市民の義務です、できますよね大人なんだから」と迫られたなら、大多数の人々は「エッそんなのムリですよムリムリ」と困惑し、怒り、果てには暴動を起こすだろう。それがなぜか税や保険の話になると、できるのが当たり前のこととしてまかり通ってしまう。
 とかく人の世は不条理であり、最近は爪に火を点しながら野良犬のごとき暮らしを送っているのだが、そんな私はつい先日、一本のエレキギターを購入した。

 ギブソン・レスポールスペシャル。

 ザ・ブルーハーツの真島昌利やサンボマスターの山口隆、BUMP OF CHICKENの藤原基央も使用する名器である。ギブソン社の中では入門用に位置付けられるモデルだが、そうは言っても天下のギブソンギターだ。お値段、19万8千円(税込)也。
 すでに述べた通り、今の私に約20万円のギターを購入する余裕などない。あるはずがない。でも買ってしまった。カッコよかった。我慢できなかった。

 あかんではないか。
 そう、あかんのである。なればこそ。

★★★

 サンカクシャにつながる若者には「あかん」ヤツが多い。
 ただでさえ少ない収入を即座にパチンコに溶かす者、シェアハウスのリビングをゴミ溜めに変える者、自室のいたるところに鶏卵の殻を散りばめる者、全身が獣臭を放っていても風呂に入らない者、トイレを掃除しない者、それどころか大便を流しすらしない者……。

 あかんではないか。
 そう、あかんのである。だがしかし。

 さまざまな事情で生活の知恵や常識を学んでくることができなかった若者にとって、世間が要求する「当たり前の暮らし」はすべてヴァン・ヘイレンのギターソロのようなものだ。うまくできないのはそれこそ当たり前であり、あかんではないかとブーイングをしてみても仕方がない(大便を流すくらいはしてほしいが)。

 この不条理極まる人の世で、それでも若者が人生というステージに立ち続けるために必要なこと。それは細かにミストーンを指摘し、ライトハンド奏法やハミングバードピッキングのような超絶技巧を習得させることではない。
 むしろ大事なのは、そんな高等テクニック(私にとっては「税や保険の知識」「計画的な支出」である)などなくともロックンロール・イズ・ノット・デッドであることを身をもって示すことであり、まずはヘタクソでも良いからギターをかき鳴らしてみようという気を起こさせることだろう。

 なればこそ、私はギブソン・レスポールスペシャルを手にしたのである。

 家に、学校に、街に、駅に、コンビニに、スーパーに、トイレに、風呂場に、役所に、病院に、そしてなによりも自分自身の胸の内にこだまする「あかんではないか」の声を、100Wのマーシャルから放たれたEコードがかき消す一瞬。その歪んだ倍音の中に、野良犬の俺たちが生きていくための歌は宿っている。

 ギャーン! アオーン!


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ライター

山口裕二

スタッフダイアリー

2024.07.01